成功できなかったもう一人の“ネイマール”

ネイマールがビッククラブからその才能を認められたのは10、11歳の頃と言われている。サントスに移籍するや否やネイマールは着実に実力を伸ばし、成功への道のりを文字通り掛け上がって行った。ネイマールがわずか数年でサントスに残した功績は今更言うまでもない。コートを離れても恋の噂や贅沢な生活スタイル、奇抜なファッションなどで常に話題を振りまいている。もはやブラジルのTV番組やCMで彼を見ない日はない。企業は彼とスポンサー契約を結ぶために列を作って待機している状態だ。わずか21歳の青年は金も名声も得、サッカー選手として大成したのだ。

その一方でネイマールの存在がビッククラブに知れ渡った少年時代、彼と同じくらい、もしくは彼より大きな期待を背負っていた選手が同じフットサルチーム、グレメタルにいた。彼の名はレオ・デンチーニョ。大きな前歯がチャームポイントの少年は、その外見と類まれなテクニックから元ブラジル代表のロナウドの異名である「怪物(Fenômeno)」と呼ばれていた。

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ネイマールとレオ・デンチーニョのコンビは毎試合相手チームを翻弄した。当時のプレーを録画した動画があり、度々ネイマールの過去を振り返るときにこの動画が使われる。ネイマールを紹介するはずの動画で彼よりもむしろ大きな存在感を放っているのが他でもないレオ・デンチーニョである。この年代から「怪物」と言われ、地元のTVや新聞に超大物と評され、将来を約束されたかに思われた選手は、現在ネイマールとはしかしあまりにも対照的な道をたどっている。

背番号10番がレオ・デンチーニョ。ネイマールは14番を付けていた。試合では無名のチーム、グレメタルが二人の活躍で3対1でサントスを撃破した。そのときの3ゴールはレオ・デンチーニョによるもので、アシストは全てネイマールだった。

では一体なぜレオ・デンチーニョは成功できなかったのか。ブラジルの大手TV局レージ・レコルジ局はこの答えを見つけるべく、彼にインタビューを試みた。それによると、レオ・デンチーニョはジュニア年代になるや否やサンパウロFCのセレクションを受けた。そこで210人の応募者の中から一人だけ唯一合格。現在ブラジル代表で活躍するオスカルやサンパウロFCのトップチームで活躍するウェリングトンなどと同じチームで練習を開始した。ところが順調に出世街道を進んでいったかに見えた彼の道に思わぬ障害が現れた。レオ・デンチーニョの両親は息子のチームとの契約をほとんど未経験の悪徳マネージャーに託してしまったのだ。

レオ・デンチーニョの父親マリオ・オリベイラさんは、「ネイマールが優秀で、責任感の強いマネージャーを獲得したのに対し、うちの息子のマネージャーは息子のキャリアを邪魔するようなことしかしなかった」と当時を振り返る。

マネージャーはレオ・デンチーニョの才能を買いかぶりすぎ、まだプロになる前からビッククラブからのオファーに対し、破格の金額を要求した。結果、次々と交渉が破綻し、レオ・デンチーニョと契約しようとするチームがひとつ、またひとつと減っていってしまった。その中にはグレミオの名前もあった。ユース年代にレオ・デンチーニョは実りのない移籍を繰り返す。一度はサントスに移籍。ネイマールと再び同じチームメイトとなった。その頃のサントスユースは将来を有望されたエリート集団だった。しかしせっかくそれだけ恵まれた環境にいながら、マネージャーがレオ・デンチーニョを弱小のパラナ・クラブに売ってしまったのだ。家族には高額の給料を払うと嘘をついて。

これについて父親のマリオ・オリベイラさんは、「マネージャーはいい給料を約束し、いい家に住ませることを約束したのに、、、、。私は何も言わなかった。自分の息子のことを他人に任せたんだから、何も口出ししないほうがいいと思っていたんだ」と後悔を口にした。

レオ・デンチーニョは、昔のチームメイトが大活躍していることについて、「代表の試合を見る度にネイマールやオスカルと自分も一緒にプレーしていたかもしれなかったのにといつも思う」と悔しさを噛みしめる。

弱小チームに移ったレオ・デンチーニョはすでに「怪物」としての輝きをすっかり失っていた。その後、パウリスタ・デ・ジュンジアイ、ジャバクアーラと小クラブを渡り歩き、最後に在籍したジャバクアーラからは解雇を通達された。サッカーのために高校も中退した。現在は所属チームがなく、練習もビーチでボールを蹴ることしかできていない。もしサンパウロで、もしくはサントスで地に足をつけて練習していたら。もし優れたマネージャーがいて、ビッククラブとの契約が成立していたら。そう考えると、レオ・デンチーニョと彼の両親はやりきれない思いになるという。もちろん全ての責任をマネージャーや契約のせいにはできない。逆境や契約のしがらみの中でも頭角を現す選手はいるからだ。そしてレオ・デンチーニョのように才能を買われ、周囲からもてはやされ、将来を約束されたものの結局は成功できなかったという選手は世界に履いて捨てるほどいる。ありとあらゆる戦いを勝ち抜いてきた者だけがプロの舞台で活躍でき、さらにその中で勝ち抜いた者が代表にのぼりつめる。才能のあるエリートの中のエリートの戦いを勝ち抜いたネイマールは運も実力も全てにおいて別格なのである。

最後にレオ・デンチーニョは、ネイマールに「これからももっともっと上手くなってもらいたい。それから家族を助けることを忘れないでもらいたい。ネイマールのことは本当に応援している」とエールを贈った。