サンパウロの空港を始め、ブラジル各地で日本人が相次いで窃盗などの被害に遭っている、との報道が流れている。被害者の中にはワールドカップチケットを失っただけでなく、カメラや高額の所持金も盗まれたケースもある。そんな話を聞くと、改めてブラジルの治安の悪さが強調される。しかしもちろんブラジルだって決して悪い事件ばかりが起こるのではない。
ブラジル対クロアチアによる開幕戦が行われた12日(ブラジル時間)の夜、ある2人組のメキシコ人がタクシーに乗って夜の街へと繰り出した。二人は車で繁華街などを巡りながら、1時間ほど走ってから宿泊先のホテルで下車。気分が高揚していたのか、車内で飲物を飲み、こぼしたりもしていた。
二人を降ろした後、運転手のアジウソン・ルイス・ダ・クルスさん(43歳)がこぼれた飲物を掃除しようと、後部座席に行くと、そこに一つの財布があった。その中にはなんと40枚のワールドカップのチケットが入っていたという。
「家について、車の後部座席のドアを開けたら財布があったんです。見つけても返さないような人の手に渡っていたら、なくなっていたでしょう。次からはもうちょっと注意してもらいたいものです。」
ブラジルでは拾ったものを持ち主に返す、ということはめったに起こらない。そのため、このような出来事が起こるだけで珍しがってニュースになる、という皮肉な現実がある。アジウソン・ルイス・ダ・クルスさんの場合も、TV番組がさっそく話を聞きつけ、アジウソン・ルイス・ダ・クルスさんがメキシコ人のホテルにチケットを返しにいくまでをカメラと共に追った。
レポーターにチケットをもらってしまおうかと思わなかったのか、と聞かれると、アジウソン・ルイス・ダ・クルスさんは、「持ち主に返すのが私の義務なので」と答えた。アジウソン・ルイス・ダ・クルスさんとレポーターがホテルに行くと、二人はいなかったが、一緒に来ていた友人グループを発見。彼らは親切にチケットを届けてくれたブラジル人運転手に感謝を意を込めて、「ブラジル、ブラジル、ブラジル」と合唱した。
このニュースがyahooブラジルに掲載されると、ブラジルのネットユーザーたちがたちまち賞賛のコメントを贈った。自分の国で起きているのが悪い事件ばかりじゃないことになにより一番ホッとしているのはブラジル人のようだ。コメントは以下の通り。
「まだこんな人が存在してくれて嬉しいよ。ブラジルの政治家もこんなふうだったらいいのに」
「状況がひどすぎるから、真面目な人が一人でてきただけで、ニュースになってしまうんだよ」
「運転手のアジウソン・ルイス・ダ・クルスさん、すばらしいよ。彼は本物のブラジル人の代表だ」
「拍手」
「ブラジルの一般人の見本を見てみろ、FIFAと政治家たちよ。」
「客がスペイン人じゃなくてよかったね。もしそうだったら運転手がバナナを買うためにチケットを売ったとかいいかねない」
「この人は日本人かスイス人の子孫なんじゃないか」